Radisson Blu Royal Hotel

世界初のデザインホテル
ラディソンSASロイヤルホテル

アルネ・ヤコブセンをめぐる旅 1

デンマークの巨匠アルネ・ヤコブセン〈Arne Jacobsen〉の最高傑作 ラディソンSASブルーロイヤルホテル〈Radisson Blu Royal Hotel〉。 1960年にコペンハーゲン中央駅前〈København H〉に完成したこのホテルは、ヤコブセンが建築し、家具や照明、カーペットやドアノブ、カトラリーにいたるまですべてのデザインを手がけたという世界初のデザインホテル。
北欧・デンマークといえばアイコンのように浮かんでくる、あの椅子。エッグチェアとスワンチェアは、このホテルのためにつくられました。
「完璧な美しさ」にこだわったヤコブセンの、究極のスウィート・ルーム〈606〉。 1960年から唯一変わらないブルーグリーンの606ルームでは、蘭の香りに満ちた、至福のときが待っていました。

2010  Photo & Text_Scandinavian fika.

Radisson Blu Royal Hotel

コペンにそびえ立つ最高級5つ星ホテル

コペンハーゲン市街のほぼ中心に位置し、中央駅〈København H〉からも歩いてすぐのラディソンSASロイヤルホテル〈Radisson Blu Royal Hotel〉は、21階建てのガラス張りのモダンなビルディング。地上70メートルの高さを誇る超高層ホテルは、客室のある高層部とエントランスのある低層部の2つに分かれていて、まるで宙に浮いているかのような外観です。古い石造りの建物が多く、建物の高さに規定があるコペンハーゲンでは、ひときわ目立つ存在。
さすがに最高級5つ星ホテルとあって、宿泊のお値段も最高クラス。一生に一度の記念にとふんぱつしました。でもここは、ヤコブセンの世界初のデザインホテル!お金ではかえられないものがあります。北欧デザイン好きなら、「ハレの日」の特別なステイにおすすめです。

Arne Jacobsen|Radisson Blu Royal Hotel

エレガントなエントランスロビー

広いエントランスに入ると、デンマークを代表する家具ブランド フリッツ・ハンセン〈Fritz Hansen〉の革張りのエッグチェア〈The Egg〉とスワンチェア〈The Swan〉がお出迎え。大理石の床と美しい曲線を描くらせん階段。想像以上にエレガントなロビー。
チェックインは、ポール・ヘニングセンのPHランプの下のデスクで。受付の女性スタッフは黒服をビシッと決め、長いブロンドの髪を一つに束ねた北欧美人。気品があるけれど気さくな感じで、日本語で「コンニチワ」と微笑んでくれました。こちらも「Hej!(ハイ!)」とデンマーク語で挨拶。「アリガトウ」には「Tak!〈タック!〉」。この片言のやりとりが楽しい。そして、彼女が「ナイスビュー」と話してくれた13階のルームへエレベーターで上がります。

客室にもスワン

エレベーターは部屋のカードキーを差し込んでからフロアのボタンを押します。こっちのホテルはみんな同じなのかな? はじめての人はぜったい焦りますね。ほろ酔いのおじさん客も、わからずボタンを連打してましたから。
13階に到着し、部屋のドアをあけると、メープルの木目の壁やインテリアの中に……いました! スワンチェアが! リーフグリーンの白鳥が羽を広げて、「ようこそ!」と部屋に招いてくれます。
ベッドやバスルームにも色合いの違うグリーンが使われていて、細部までコーディネートされています。
宿泊した2010年は、ロイヤルホテルオープン50周年。エッグチェアの曲線美をデザインした豪華な表紙の記念のパンフレットが置いてありました。

パステル調のグリーンのタイルがやさしいバスルーム。北欧のホテルではめずらしく、お風呂がついていて湯船でゆったりできます。洗面台は高級感あふれる大理石。冬に冷たくなる床は、なんと大理石の床暖房です!
部屋の内装やインテリア、照明のコードのスイッチまでデザインしたというヤコブセンですが、水道の蛇口にもこだわっています。シンプルな中にも高いデザイン性感じる美しいプロポーションの蛇口……ただ、使いやすさはクエスチョン??? 小さなレバーがうまくひねれず、シャワーのお湯が調整できません! でもこれも、歴史あるホテルの楽しさのひとつ。帰国した今は、あの言うことをきかないわがままな蛇口がかわいくてたまりません。

窓からは最高の眺め

客室の窓からは、眼下にチボリ公園、東には市庁舎の塔が見えます。「北欧のパリ」と称されるコペンハーゲンの町並みが一望できる「ナイスビュー」。夜になるとライトアップされるチボリの夜景もきれいです。夜は外食はせずに、窓辺のスワンチェアにくつろぎながら、ワインをたしなむのも最高の贅沢。ただ、自分はお酒が飲めないので、夜景をつまみに飲むヨーグルトをいただきました。
ホテルの最上階にはレストラン アルベルト・コー〈Alberto.K〉があります。アルベルト・Kとは、ロイヤルホテル建設を進めた初代マネージング・ディレクター、アルベルト・カッペベルグの名前。レストランでは今も、ヤコブセンのデザインしたカトラリーやテーブルクロスが使われています。

セブンチェアで God morgen!

God morgen!(グッ モーアン!)とは、デンマーク語で「おはよう!」。6:30起床。7:00に1Fレストランへ。朝食のビュッフェはパン、チーズ、フルーツも豊富。小エビやサーモン、小さなジャガイモ、マッシュルーム、どれもおいしい!窓際のテーブルのセブンチェア〈Series 7〉に座ると、目の前に観光案内所があり、チボリ公園や人気のスーパー・イヤマもすぐ。観光には最高のロケーションです。
ジャズミュージシャンのような黒人のウエイターに「コーヒー? ティー?」と聞かれたので、迷わずコーヒーをオーダー。すると、のっぽの黒いポットで出てきました。北欧のコーヒー消費量は世界一と聞いたことがあるけれど、味も本当にうまい! 朝食ももちろん食べ過ぎました。酸味のある黒パンと、レバーペーストにはまった! くるくるまわすチーズスライスも楽しい!
「ベリーグッド ブレックファースト!」とジャズなウエイターに伝えたら、言葉もわからないのにすっかり仲良くなってしまって。別れの際は、踊りながら手を振ってグッバイしました。
かわいいコーヒーポットはおみやげに購入。ステルトン〈stelton〉社のバキュームジャグは北欧ロングセラー。

アルネ・ヤコブセンの606スウィート

ラディソンSASロイヤルホテルに、どうしても泊まりたかったもう一つの理由。それは、建築当時のミッドセンチュリーのモダンデザインが残る606号室のヤコブセン・スウィートを見学するため。
オープンの1960年から今も変わらない「606ルーム」。ストライプのベッドの横には、オブジェのような、鮮やかなブルーのエッグチェア、スワンチェア、ドロップチェア。その他、AJカトラリーやステルトンのコーヒーポットなど、不朽の名作がショーケースに飾られています。
「完璧な美しさ」にこだわったヤコブセンの、究極のスウィート・ルーム。

未来のカタチ、エッグチェア

“たまご”のカタチをした美しいフォルム。体をすっぽりとやさしく包み込み、安らぎとくつろぎを与えてくれる優雅な椅子、ザ・エッグ〈The Egg〉。SASロイヤルホテルのためにデザインされ、当時最先端の発砲ウレタン成型でつくられた60年代のハイテクチェアです。
名作アントチェア〈The Ant〉や、セブンチェア〈Series 7〉には座ったことがあっても、エッグチェアは初めてでした。だって、価格が70万〜100万円もする!とても高価なもの。ふつうの人が座れる機会なんて……と思っていたら、北欧の空港にも置いてあって、小さな子供がゆったりくつろいでいました。
いつかあの子が大きくなって、たまごの価値を知っても、その美しいデザインが色あせることはないでしょう。エッグチェアは時代の先を行く、未来のカタチなのです。

水のしずく、ドロップチェア

部屋のソファの横の小さなのテーブルには、しずくのカタチをしたブルーのドロップチェア〈The Drop〉が置いてありました! 本でドロップチェアは見たことはあっても、女性のための化粧台の椅子としてデザインされたことを初めて知りました。それにしてもかわいい、“しずく”。現在はつくられていない、とても貴重なものだとか。
子供の頃は顔が大きく、足が太いことを気にしていたというヤコブセン。とにかく頑固だったという男からは想像できないほど、優美で気品に満ちたデザインを描きます。エッグやスワン、そしてドロップの曲線美は、女性の体のカタチのように美しい。
「デザインとは、デコレーションではなく、プロポーションなのだ」そう言い放った彼の言葉に共感。その才能に惚れ惚れしました。

昔のままのヤコブセン・スイート

275室の客室の中で唯一改装をしていない、建築当時のままの606ルームは、今でもヤコブセンファンの宿泊客で予約がいっぱいになるそうです。606ルームの見学は無料ですが、運よく部屋が空いていなければ中を見せてもらうことができません。何度もホテルのボーイさんから「ソーリー。リトライ」と断られ、見学を諦めかけていたら、こちらの気持ちを察してくれてか、ベッドメイキングのあと、特別に6階に案内してくれました!
北欧デザインの聖地ともいえる憧れのアルネ・ヤコブセン・スウィート。彼は蘭が好きだったらしく、606ルームにも紫の蘭の花。案内してくれたイケメンのボーイさんも、とても親切に接してくれました。
感激してパシャパシャ写真を撮っていたら、6階に宿泊していた日本人の家族が「ちょっとだけ見せてもらってもいいですか」と入ってきて、「どうぞどうぞ」と一緒に見学。若奥さんは「毎年ここに泊まっているけど、この部屋を見るのに4年もかかっちゃったね」と笑っていました。ああ、見れてよかった!

シリンダ・ライン

デンマークのステンレス製のテーブルウェア専門メーカー、ステルトン〈stelton〉社のシリンダ・ライン〈Cylinda-Line〉。実はステルトン社の社長は、ヤコブセンの義理の息子。あるとき、息子からプロダクトデザインを頼まれたヤコブセンは多忙を理由に断り続けていました。でも、あるパーティーの席で諦めずに再度お願いしたら、ヤコブセンはかなり怒った様子で紙ナプキンにデザイン画をスケッチしました。これが、名作「シリンダ・ライン」の誕生秘話です。当時ステンレスでつなぎ目のないデザインを再現するのは、とても難しくて大変だったとか。
下の写真は工芸博物館の「シリンダ・ライン」展示品。右から、コーヒーポット、ジャグ、ティーポット。ヤコブセンが息子の頼みを聞いたのは、ステンレスという素材が彼を引きつけたからだといわれています。

ヤコブセンの「未来の家」

北欧デザインの巨匠、デンマークデザインの父とも呼ばれる、建築家兼デザイナーのアルネ・ヤコブセン〈Arne Jacobsen〉。 トータルデザインを手がけたSASロイヤルホテルほか、20世紀の新しいのライフスタイルを提案したベルビュー・ビーチ〈Bellevue beach〉の一大リゾートプロジェクトに着手。監視塔やシアター&レストラン、ベラヴィスタ集合住宅など、白く輝くモダンな建築群を世に生み出し、人々の心を躍らせました。
オーフス市庁舎〈Aarhus Rådhus〉の建設では、当時無名だった助手のハンス・ウェグナー〈Hans J Wegner〉が、ものづくりに対して妥協を許すことなく突き進むヤコブセンの姿に影響を受けたそうです。
「生まれ変わったら、庭師になりたい」と口にしていたヤコブセン。植物が描く自然のフォルムに惚れ込み、「この世でいちばん美しい植物」といってサボテンを愛したとか。
デンマーク「建築フォーラム」のコンペで、若き日のヤコブセンが描いた「未来の家」は、SF小説から飛び出したようなセンセーショナルな円の形をしていました。人類の理想の家を、何にも縛られずデザインする……もしかしたらヤコブセンは、時代を超えた、「未来の家」をずっと追い求めていたのかもしれません。

【追記:ラディソン・コレクション・ロイヤルホテル】

アルネ・ヤコブセンが手がけたラディソンSASロイヤルホテルは、 2018年春、ラディソン・コレクション・ロイヤルホテル〈Radisson Collection Royal Hotel〉としてリニューアルオープン。ヤコブセンのビジョンを残し、デザイン集団〈スペース・コペンハーゲン〉が名作ホテルをフルリノベーションしました。
エントランスロビーの大理石のフロアと壁、螺旋階段、ヤコブセンの〈606〉ルームだけは1960年から変わらず、今に残されています。

Arne Jacobsen

1902 - 1971|Denmark

ラディソン コレクション
ロイヤルホテル

アクセス
コペンハーゲン中央駅前
徒歩約3分。
ホテル前にチボリ公園、
観光案内所があります。

Radisson Collection Royal Hotel
www.radissonhotels.com

Bellevue beach &
Søholm

ベルビュービーチと
スーホルム

アルネ・ヤコブセンをめぐる旅 2


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