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サンナのおうちと
ジャムのアトリエ

ミッドサマーが近づく夏のスウェーデン。ストックホルム郊外の美しい町 ナッカ〈Nacka〉へ。
森と湖に囲まれた閑静な住宅地の中に、りんごの木が茂るアプリコットカラーの可愛い古民家を見つけました。そこは、スウェーデンのフードスタイリスト・サンナさん〈Sanna Fyring Liedgren〉のおうち。
NHK BS プレミアム『サンナのすてきな北欧スタイル』のサンナさんのおうちに招待され、2日間のホームステイ。スウェーデンのおいしい料理と、FIKAのお菓子。ホームメイドのジャム。すてきな暮らしのレシピがいっぱい。
愛犬のミムランもシッポをふってお出迎え。サンナのおうちへようこそ!

2019 Photo & Text_Scandinavian fika.

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サンナのすてきな北欧スタイル

2018年6月に NHK BSプレミアムで放送された『サンナのすてきな北欧スタイル』。雪の積もる早春のスウェーデン・ストックホルム。リンゴの木に囲まれた古民家で暮らす人気のフードスタイリスト、サンナさん(Sanna Fyring Liedgren/ サンナ・フィリング・リードグレン)。春の到来を祝うイースターの1週間、サンナさん家族に密着取材。 大好きな番組で、録画して何度も何度も観ました。
番組の中で紹介されたサンナさんの暮らしの中には、 春を愛でる北欧の家族のやさしさと、 ほんものの FIKA(フィーカ)が描かれていました。

『サンナのすてきな北欧スタイル』を観ていると、なんだか、サンナのおうちで過ごしたあの夏の日が夢のように思えてきます。

サンナのおうちでホームステイ

ミッドサマー(夏至祭)が迫る、夏の白夜のスウェーデン。ストックホルム中央駅からタクシーで15分ほどの美しい町 ナッカ〈Nacka〉へ。1900年初期に建てられた古民家が並ぶ閑静な住宅地の中に、アプリコットカラーのサンナの家に見つけました。
木立を抜けるようにしてサンナの家の敷地に入ると、庭の奥からキャンキャンッ!と犬の鳴き声が。サンナの愛犬のミムラン(Mymlan) が駆け寄って来て、飛び跳ねながらシッポをふって歓迎してくれます。
『サンナのすてきな北欧スタイル』で見たあの雪解けの庭は、りんごの木が茂り、バラが咲き、夏の北欧の低く傾いた陽を浴びて、草木は緑色に輝いていました。

「Hej!(ヘイ!)」と家の中から、ルバーブ柄のエプロンを巻いたサンナが笑顔で出迎えてくれました。テレビで見るよりも若々しく、チャーミングで、すらりと背の高い、かっこいいサンナ。お会いできて感激!
「夕飯ができるまで、庭のハンモックでミムランといっしょに待っててね」と、
ウェルカムドリンクのルバーブのサフト(濃縮シロップを炭酸で割ったジュース)を持って来てくれました。 ルバーブのさわやかな酸味がおいしい!

北欧の春の野菜、ルバーブは大好き!(北欧で食べてから好きになった)
『サンナのすてきな北欧スタイル』で出てきた、ルバーブパイもおいしそうだったなぁ。レシピが簡単だから、日本でもみんな真似して作ってた。
「簡単だからいいのよ」
サンナはいつもそう言っていた。

Sanna’s Rhubarb Squash

サンナのルバーブのサフト
©︎ Homegrown Swedes

Sanna’s Rhubarb Pie

サンナのルバーブパイ
©︎ Homegrown Swedes

ミムランと ヤンソンの誘惑

サンナがガーデニングをしている広い庭には、花や果樹の他にも菜園やガラス張りの温室があって、オーガニック野菜やハーブを育てている。
ガーデンテーブルには青い花柄のクロスがかかっていて、ヤナギのかごにはカトラリーとナプキンがセットされていた。北欧の夏は、夕食も外で食べるからピクニックみたいに気持ちいい! 
芝生の上で大人しくごはんを待つ、おりこうさんのミムラン。くるっとカールした毛がふわふわで、人なつっこくて、かわいい子。
りんごの木の下のハンモックに揺られると、空に舞うような夢心地。目を閉じて、耳をすますと、鳥の鳴き声と虫の音しか聞こえてこない。清らかな空気と白夜の陽の光。
キッチンから、おいしそうな香りがただよってくる。
「今日のディナーは〈ヤンソンの誘惑〉よ」

〈ヤンソンの誘惑〉は、スウェーデンの伝統的な家庭料理。昔、菜食主義者のヤンソンさんが誘惑に負けて食べてしまった!という、スウェーデン風ポテトグラタン。アンチョビがきいていて、スウェーデン産のアンチョビのピンク色の缶詰〈Grebbestads Ansjovis Original〉 が味の決め手だとか。
サンナの家族や友人やゲストたちと庭のテーブルを囲んで、オーブンから焼きあがったばかりの〈ヤンソンの誘惑〉を食べながら楽しくディナー。 夏至に飲むお酒 シュナップス(ジャガイモの蒸留酒) は歌をうたいながら乾杯!
「Skål! (スコール!)」

Jansson’s Temptation

ヤンソンの誘惑
(スウェーデン風ポテトグラタン)
©︎ Homegrown Swedes

オスカルのピアノ

サンナの家のリビングには、白い暖炉とソファー、壁一面の大きな本棚と古いグランドピアノがある。『サンナのすてきな北欧スタイル』で、サンナの旦那さん・オスカル (Oscar)がピアノを弾いていたシーンがとってもよかった。夜のFIKAの家族団欒のひととき。オスカルがスウェーデンのジャズピアニスト、ヤン・ヨハンソン〈Jan Johansson〉の曲を演奏して、サンナと2人の娘(長女のフローラ (Flora)と次女のテア(Thea)) がソファーによりそって、紅茶を飲みながら聴いていた。
このグランドピアノはオスカルのおばあさんが、芝刈り機と物々交換して譲ってもらったものなのだとか。

この日の夜、〈ヤンソンの誘惑〉を食べ終えたあと、わたしが窓辺のソファーでくつろいでいたら、次女のテアとテアの友達2人がピアノを弾いて、歌を歌ってくれた。仄暗いリビングに灯るキャンドルの明かり。透明感のある、のびやかな歌声とハーモニーが響く。
感激して「Tack! Tack!(タック、タック!/ありがとう!)」と拍手したら、
少女たちははにかんでいた。
なんて素敵な夜。
時計の針が10時をまわり、白夜のスウェーデンもようやく、うっすら日が暮れる。

船のレシピ

鳥のさえずりで目覚めた翌朝は、サンナとふたりで庭で朝食。黒パンにたっぷりのバター。ロンドンポタリーのティーポットでサンナがおいしい紅茶を淹れてくれた。大きく育った庭のジャスミンが満開で、いい香り。
朝食のあとは、ミムランの散歩に出かけた。サンナのおうちも素敵だけど、ご近所に建つ家も素敵な家がいっぱい。森に包まれたこの地区は築100年以上の古民家がたくさん残っていて、みんな自分たちでリフォームして庭や菜園を作って暮らしているそう。
「サンナ。日本の人たちは、あなたの暮らしに憧れているよ。こんな大きな家と花や果実が実る庭で暮らすのが夢」と話したら、少し驚いたように笑って、「うれしい」と喜んでいました。
サンナも日本が大好き。日本の和食や美しい和菓子が特に好きで、キッチンでは京都〈有次〉の包丁を使っていました。包丁を研ぐことも好きなのだとか。

現在はフードスタイリストとして活躍するサンナは以前、レストランの料理人として働いていました。サンナのお父さんはレストランのオーナーシェフ。「船」が好きだったというお父さんが残したスウェーデン料理の手書きのレシピには、美しい船の水彩画が描かれていました。
『サンナのすてきな北欧スタイル』のイースター(復活祭)のパーティーでは、サンナがお父さんの船のレシピからスウェーデンの伝統料理「ニシンの酢漬け」と「ラムロースト」を作って、ご馳走をふるまっていました。

サンナは自分の料理について、こう語ります。
「旬の食材を、極力シンプルに料理する。それが私の唯一のこだわりかな」

「簡単だからいいのよ」
そんな何気ない言葉にも、彼女らしい芯を感じる。
「手間暇をかけた料理はすごく美味しいし、特別だけれど、毎日はできない。家庭では毎日、簡単でおいしい料理を作る方がいいわ。家事を終えた後、リラックスできる時間が大切なの」

取っ手のないティーカップ

サンナの家の中には、リビングのソファーやダイニングのテーブルの他にも、ラタンの椅子がある窓辺のお部屋など、くつろげるスペースがたくさんある。白い壁にはグラフィックデザインやアートパネルや絵画。テーブルクロスやカバーやラグは夏らしい鮮やかな色合いのテキスタイル。部屋ごとに違うタイプの家具をセレクト。ビンやかごや陶の小物、暮らしの道具、挿花や緑。インテリアの配置や配色が絶妙で、ほんとうに素敵!どこを切り取っても絵になる。フードスタイリストのサンナのセンス、グラフィックデザイナーの夫のオスカルのセンス!

2階の壁いっぱいにアルバムのような家族の写真が飾ってあった。モノクロの古いフィルムには、若き日のオスカルとサンナ。幼い頃の長男のヒューゴ、娘のフローラとテア。
20歳で家を出た長女のフローラはアートを学んでいる学生。絵もデザインも、とってもセンスがある。家の中に飾られたアートは、どこかの有名なアーティストの作品だと思っていたら、フローラが描いたものだった!可愛いジャムのラベルやスケッチ、手書きのラフなタイトルやイラストも、フローラの繊細で柔らかなタッチが光ってる。
絵やデザインを通した家族の絆。パレットの上で混じり合う絵の具のように、マーブルできれい。


『サンナのすてきな北欧スタイル』で、取っ手が欠けたティーカップを見せてくれたサンナ。
「壊れているわね。でも捨てられないわ。祖母が絵付けしたものだから」
小さな虫や野の花が絵付けされたティーカップ。
あのときの言葉が忘れられない。

「完璧でないものには魅力があると思う」

ジャムのアトリエ

サンナの家の南東の角部屋には、ジャムのアトリエがある。サンナは〈Marmeladeriet〉のブランド名で、季節のオーガニックジャムやマーマレードをホームメイドで作っている。ブルーベリーやラズベリー、ルバーブ、オレンジ……新鮮で上質な果実をつかって、フランスの伝統的なジャムの製法で作っているそう。ジャムを煮る銅鍋が美しくて、つい見惚れてしまう。
銅鍋で煮たジャムを瓶詰めして、スプーン型のシールを貼って封をして、手書きのメッセージを紐で結んでラッピング。

『サンナのすてきな北欧スタイル』で出てきたブルーベリー&ラズベリーの「女王さまのジャム」(※スウェーデンではクイーンジャムと呼ばれています)は、番組放送後にサンナが日本へたくさん送ってくれたので、サンナのファンの方や、スウェーデン留学経験のある友人たちにおすそ分けしました。
サンナのクイーンジャムは、ほんとうに美味しい!上品な甘みと爽やかな酸味。プチプチの果実の食感。ベリーの一粒一粒がつやめいていて、色もとてもきれい。

バラのクッキー

庭で摘んだバラをオーブンでドライして、クッキーにはらはらと添えたサンナのバラのクッキーでFIKA。スウェーデンでは1日に何回も〈 FIKA 〉があります。〈 FIKA 〉とはスウェーデンのティータイムのこと。ほろほろのクッキーが、ほんのり甘くてやさしい。

サンナはWEBサイトで(夫のオスカルが撮影した)お菓子のレシピ動画を公開しています。
オスカル(Oscar Liedgren)はとても優れたデザイナーで、グラフィックデザインだけでなく映像や音楽も素晴らしい。サンナのことを知る前から、ローゼンダール・ガーデン〈Rosendals Trädgård〉のレシピ動画が好きでよく観ていたので、オスカルが制作した動画だと知ってびっくりしました!

スウェーデンの伝統的な FIKAのお菓子、「ブルーベリーパイ」「シナモンロール」「セムラ」。 サンナとオスカルの素敵なレシピ動画をぜひ観てみて!

Sanna’s Blueberry pie

サンナのブルベリーパイ
©︎ Homegrown Swedes

Sanna’s Cinnamon Rolls

サンナのシナモンロール
©︎ Homegrown Swedes

Sanna’s Semla

サンナのセムラ
©︎ Homegrown Swedes

ナッカと サルトショー・ドゥーヴネス

午後はサンナが車でナッカ〈Nacka〉のいろんな場所を案内してくれました。日本ではあまり知られていないけど、森と湖に囲まれたストックホルムのナッカはほんとうに美しい町。
湖の畔にある森のオーガニックカフェ 〈Storstugan Hellasgården〉 でランチして、そのあとナッカの自然保護区 〈Nyckelvikens Herrgård〉へ行って、中世の邸宅と美しい庭園の中を歩いた。丘の上の岩山の展望台から見た、ストックホルムの景色が最高だったな。
北欧最大の都市ストックホルムの中心地から、車で少し走れば、都会の喧騒もない、自然豊かな森と島と湖が広がっている。

6年前に、ナッカのサルトショー・ドゥーヴネス〈Saltsjö-Duvnäs〉に行ったことがあるとを話したら、サンナが微笑んだ。
「サルトショー・ドゥーヴネスは、私の故郷よ」
サルトショー・ドゥーヴネスにはスウェーデンの芸術家 オッレ・ニィマン〈Olle Nyman〉のアトリエがあって、アトリエには夏だけオープンする素敵なカフェがある。
「サルトショー・ドゥーヴネスはほんとうに美しいところ。オッレ・ニィマンのアトリエは、ナッカでいちばんのカフェよ」

新じゃがと、りんごのシュナップス

最後の夜の夕食は、わたしにサンナを紹介してくれたスウェーデン在住のフォトグラファー・コーディネーターの明知直子さんと、旦那さんの明知憲威さんご家族を招いて、温室でディナー。
サンナの庭の温室は、とっても居心地が良い。みんなで料理を運んで、ランプの火を灯せば、小さなガラスの家だ。野菜やハーブが育って、庭仕事の道具も愛らしい。
夕飯の食材はサンナといっしょにマーケットに買い出しにいった。手際よく支度して、オーブンで魚を焼き上げるサンナ。今夜のメニューは、トラディショナルなサーモンのグリル。お好みでバターソースとレモンをしぼってめしあがれ。
スウェーデンの夏至の食卓に必ず並ぶ、新じゃがのボイル。鍋のフタを開けると、ディルの香りがふわり。この小ぶりのじゃがいも、すっごく美味しい! ミムランもほしそうにこっちを見てる。
サンナの庭で実った林檎からつくった自家製の蒸留酒 シュナップスで乾杯!今年のりんごのシュナップスは、美味しくできたと喜んでいた(※わたしはお酒が飲めないので、りんごジュースで乾杯)オスカルが今、シュナップスのボトルデザインを考えているそう。
みんな、お酒でほんのり頬が赤くなったころ(シュナップスはすごく強いお酒)、デザートで出てきたのはエーランド島〈Öland〉のイチゴ。夏至のデザートはイチゴと決まってる!

毎年ミッドサマーは家族で南スウェーデンのスコーネ地方に出かけるというサンナ一家。スコーネ〈Skåne〉には海があって、気候も温暖だからバカンスは観光客で人気なのだとか。
「明日から、どこを旅するんだい?」 とオスカル。
わたしは「ダーラナ〈Dalarna〉のレクサンド〈Leksand〉。夏至祭を見に行く」と答えた。
あと数日でミッドサマー。1年でいちばん日の長い「夏至」が近づいている。
長い冬が終わり、春を迎え、待ち望んだ夏。一瞬のきらめきのような眩しい夏。

雪どけの FIKA

出発の朝。2階のゲストルームの窓の向こうで、小鳥が木の実をついばんでいた。いつ夜になったのか、いつ朝が来たのか、わからないまま眠りに落ちた白夜の2日間。目を覚ました時が「今日」のはじまり。
ホームステイを終えて、わたしは北のダーラナへ、サンナ一家は南のスコーネへと旅立つ。
サンナとお別れの時、おみやげに2つのジャムをくれた。一つはあのクイーンジャム。もう一つは、新作のルバーブとラズベリーのジャム!

「Sanna, Tack så mycket!(本当にありがとう!サンナ!)」


『サンナのすてきな北欧スタイル』のラストシーン。
クロッカスが咲いた雪どけの庭で、春を愛でるサンナの家族。庭へつづく階段で肩を並べてよりそって、ハートのワッフルを食べながら、家族で FIKAするシーンが大好きだ。
葉もないりんごの木を見ながら、まぶしい夏の光を想像している。
家族のぬくもりと、ほんものの FIKA がそこにある。
サンナの家族が想いふくらませた、夏の景色の中に、わたしはいたのだろう。
あの夏の光を、夏の匂いを、わたしは忘れない。

Sanna Fyring Liedgren

Swedish stylist
From Stockholm, Sweden

サンナ・リードグレン

PROFILE
スウェーデンのフードスタイリスト
ストックホルムでリンゴの木に囲まれた
築100年の古民家に暮らしながら、
自然の恵みを取り入れた料理や
生活スタイルを提唱している。

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