Dala-Floda 1

ダーラナの小さな村、
ダーラフローダを訪ねて

ダーラフローダの旅1 - 前編 -

スウェーデン人の"心のふるさと"、ダーラナ〈Dalarna〉。スウェーデンの原風景がのこるスウェーデン中部のダーラナ地方は、ファールン・レッドと呼ばれる伝統的な赤い木の家や、木彫りの馬のダーラヘスト〈Dalahäst〉、花飾りのメイポールを囲んで踊る夏至祭など、美しい自然とともに伝統的な文化が守られてきた場所です。

2013年の北欧の旅の終着点として向かった先は、ストックホルムの北西、ダーラナ地方の森の奥深く。Flosjön 湖の南に位置する小さな村、ダーラフローダ〈Dala-Floda〉。
すいこまれるようなヴェステルダール川の景色。初めてなのに、どこかなつかしい、スウェーデンの田舎の風景。
美しい川と森と湖がひろがる、小さな村フローダの物語───

2013 Photo & Text_Scandinavian fika.

Dala-Floda 1

スウェーデンの原風景

子供のころ、リンドグレーン〈Astrid Lindgren〉原作の映画『やかまし村の子どもたち 〈Alla vi barn i Bullerbyn〉』を観て以来、いつか訪れたいと夢見ていたスウェーデンの田舎町。湖のほとりや川辺に赤い家が建ち並ぶ、美しいのどかな風景。「スウェーデンの原風景」ともいわれるダーラナ地方〈Dalarna〉は、スウェーデンの伝統や昔ながらの文化が、今も息づいている場所。
ストックホルムの北西に広がるスウェーデン中部の広大なダーラナ地方(ダーラナ県)。シリヤン湖〈Siljan〉のまわりに点在する村々、レクサンド〈Leksand〉、レットヴィーク〈Rättvik〉、モーラ〈Mora〉などは風光明媚な場所として知られています。でも、今回訪れたのはシリヤン湖から40kmほど南に位置する、もっともっと小さな村 ダーラフローダ〈Dala-Floda〉。地元の人たちはみんな親しみを込めて「フローダ〈Floda〉」と呼ぶそう。
ダーラナの中でもどうしてフローダを選んだのか。それは、ただただ、素朴で小さな村に魅かれたから。観光というよりも、スウェーデンの田舎の夏休みを味わってみたかったから。 スウェーデン人の”心のふるさと”、ダーラフローダをめぐる旅は、ストックホルムから列車に乗ってはじまります。

ダーラフローダへようこそ

ダーラフローダ〈Dala-Floda〉へは、ストックホルムから列車とバスを乗り継いで片道3時間半の長旅。
まずストックホルム中央駅〈Stockholm Central Station〉から、SJ (スウェーデン国鉄)のシルバーの特急列車 Inter City(二等車/195SEK)に乗って約2時間半。シリヤン湖の南東に位置するボーレンゲ〈Borlänge〉駅で下車し、そこからバスに乗り換えます(バス252番/56SEK)。ヴェステルダール川〈Västerdalälven〉に沿うように、西へ向かってバスで走ること約40分。バスの窓の外の景色がどんどん変わってゆき、スウェーデンの伝統的な赤いお家や、針葉樹の森、黄色い菜の花畑が目に飛び込んできます。
バスの運転手さんに「ダーラフローダへ行きたい」と伝えておいたので、村に入ると「ここがフローダだよ」と教えてくれました。
車がほとんど走っていない道の右手に見えてきたのは、村の小さなスーパーマーケット ICA(イーカ)。ダーラフローダ ICA前〈Dala-floda ICA〉のバス停で下車。初めてダーラフローダの地に降り立ちます。目の前に広がる、素朴でのどかな田舎の風景。
この村特有の花をあしらったポーソム〈Påsöm〉刺繍のドレスの女性と、ポーソム刺繍の手袋があたたかくお出迎え。
「ダーラフローダへようこそ」

白い教会と赤い橋

ダーラとは「谷」、フローダとは「川」を意味する言葉。村を流れる穏やかなヴェステルダール川は、ダーラフローダの美しさをそのままあらわしています。川には3つの橋が架かっていて、赤い木の家と同じ色の大きな赤い吊り橋は、フローダのシンボルといえるもの。川の向こう岸まで車で渡ることができるのは、この赤い橋だけ。1922年につくられ、1982年に再建した158メートルの木造の吊り橋〈Floda Kyrkälvbro〉は、フローダの人びとの暮らしになくてはならない橋なのです。
橋のたもとには、ダーラフローダで最も古い歴史を持つフローダ教会〈Floda kyrka〉があります。白い教会からピアノの音が聞こえてきたので中に入ってみると、ピアノの演奏会の準備をしていました。フローダ教会は、村人たちの憩いの場でもあるのです。夕方になると教会に集まって、あの優しいピアノの音に酔いしれたことでしょう。
白い教会から赤い橋を歩いて、橋の真ん中で見た、ダーラフローダの景色が忘れられません。川の流れが穏やかになると、川岸に建つ赤い家々が、鏡のように水面に映ります。雄大な自然と、清らかな空気。どこまでも、それが続いてゆくかのような、美しい川と村がそこにあるのです。

フローダ・ヘムビュッグデスゴード

赤い橋を渡って道なりに少し歩くと、フローダ・ヘムビグスゴーデン〈Hembygdsgården〉が見えてきます。ここは100年以上前のフローダの人びとの暮らしぶりを見ることができる民芸館。ダーラナ様式の木の椅子やベッド、古い道具や民族衣装などが展示されています。
(要予約制。残念ながら開館されていなかったので、中を見学することはできませんでした)
この古い民芸館にも使われている、ダーラナ地方の伝統的な木造建築の赤色は、「ファールン・レッド〈Falun Red〉」と呼ばれる銅の色。世界遺産にも登録されているファールン〈Falun〉鉱山から採掘された顔料が塗られていて、さびや劣化を防ぐ効果があるのだとか。
スウェーデンというとすぐに思い浮かぶのが、ファールン・レッドの赤いおうち。ダーラフローダで見る可愛らしい家のほとんどがファールン・レッドでした。
「スウェーデンの田舎に何しいくの?」と聞かれたとき、「赤い家を見にいく」と答えました。
ほんとうに赤い家の風景が見れれば、それだけでよかったのです。初夏の若草の中にたたずむ、赤い家の美しいこと。

幸せを呼ぶ馬

昔からダーラナ地方の馬は、畑を耕したり、物を運んだり、村の人びとの暮らしを手助けしてくれる大切な存在でした。ダーラナの伝統工芸品として世界中で愛されている木彫りの馬 ダーラヘスト〈Dalahäst〉は「幸せを呼ぶ馬」といわれ、ダーラフローダのたくさんの家の窓辺でも見ることができます。
(ダーラヘストは日本ではダーラナホースとも呼ばれています)
16世紀から作られていたというダーラヘスト。もともとは長い冬の間、男たちが松や白樺の切れ端をつかって、子供たちへのおもちゃとして作ったのがはじまりだとか。赤や青の馬の胴体に花びらやレースのような模様の絵付けがされたものが多いですが、無垢の木のダーラヘストも素敵です。
その昔、ダーラナはとても貧しい農耕地帯だったため、多くの人たちが開拓地を求めて、ダーラナの地を去っていきました。そのとき、故郷を忘れないため、ダーラヘストをお守りのように持っていったのだとか。

このダーラナの旅行記は、部屋の窓辺に飾ったダーラヘストを見ながら書いています。ダーラナもスウェーデンも、自分の故郷ではないけれど、不思議と郷愁に似たものを感じます。木彫りの馬が幸運を運んできたのかはわかりませんが、私が今、幸せなのは確かです。

フローダをめぐる旅

2013年6月初旬のダーラフローダの旅は1泊2日の小旅行でしたが、のんびり景色を楽しみながら橋を渡り、写真を撮り、村をぐるりと1周まわりました。ただ歩いているだけで、ふんわり満ち足りた気分になれる場所。
ダーラフローダには、ポーソム刺繍の民族衣装や民芸品が並ぶ手工芸店フローダ・ヘムスロイド〈Floda hemslöjd〉や、アンティークショップのフローダボーデン〈Flodaboden〉(※残念なことに閉店)、スウェーデンでいちばんの呼び声も高い毛糸工場ウォルステッズ〈Wålstedts〉、100年以上もの歴史を持つ宿 ダーラフローダ・ヴェーズヒュース〈Dala-Floda Värdshus〉などがあります。

ダーラフローダ・ヴェーズヒュース近くの Flosjön 湖にはみんなのサウナ小屋もあって、薪で熱した焼石に水をかけて蒸気で体を温めて、そのまま湖にドボーン!
もう、気持ちよくて最高です!!

Dala-Floda Värdshus

ダーラフローダ〈Dala-Floda〉は小さな村で、ダーラナ地方の観光地 レクサンド〈Leksand〉と比べるとほとんど情報がなかったため、行き方や宿の手配など、スウェーデン在住のフォトグラファーであり、コーディネーターの明知直子さんに、ダーラフローダの旅をプランニングしていただきました。
明知直子さんと明知憲威さんご夫婦は『北欧スウェーデン 暮らしの中のかわいい民芸』(2014年6月出版/PIE International)という本を出版されたばかり。この本にはダーラナの民芸やダーラフローダの見どころがたくさん紹介されていて、北極圏から南スウェーデンまで、「かわいい民芸」とともに、この国の伝統や文化が興味深くつづられています(スウェーデンの民芸ファンは必見!)
ダーラフローダの旅日記を書いているときに、この素敵な本と出逢えてよかった!大切な思い出がまたひとつ増えました。

ダーラフローダをめぐる旅は、まだまだ続きます!

中編へつづく →

Dala-Floda

Dalarna|Sweden

ダーラフローダ

アクセス
ストックホルム中央駅から SJの特急列車で
北西へ約2時間半。
ボーレンゲ〈Borlänge〉駅で下車。
駅から252番バスで西へ約40分。
スーパーのバス停〈Dala-floda ICA〉で下車。

www.dala-floda.se

Dala-Floda 2

ダーラフローダのウールの刺繍
- 中編 -

ダーラナ・ダーラフローダの旅 2


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