DRAKAMÖLLAN 2

スコーネの魔法の宿
美しきドラカモラン

- 後編 -

1962年からスコーネ地方〈Skåne〉最大の自然保護区〈Drakamöllan Naturreservat〉として大切にされてきたドラカモラン〈Drakamöllan〉。
エステルレーン〈Osterlen〉の丘陵の谷間にひっそりと佇む古民家ホテルを取り囲むのは、龍のうねりのような壮大な荒れ地。
太古の昔から、このヒースの丘で馬や牛や羊が放牧され、金色のオリオールやナイチンゲールの鳥の歌声と共に、ブナの森が守られてきたという。

2019 Photo & Text_Scandinavian fika.


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DRAKAMÖLLAN 2

ドラカモラン自然保護区

エステルレーン〈Osterlen〉の丘陵の谷間に建つ、 17世紀の農家を改築した茅葺き屋根の宿 ドラカモラン〈Drakamöllan Gårdshotell〉。オーナーのインガリル・ソレル〈Ingalill Thorsell〉は、自然と一体になった古民家ホテルを20年間運営し、リノベーションを重ね、美しい料理と おもてなしと オペラで、ドラカモランに魔法をかけた。
毎年夏に、ドラカモランの西の丘で野外オペラが開かれる。インガリルはオペラが大好き。そのときは人も森も生き物もおとなしく、オペラの歌声に酔いしれるそう。

この日はよく晴れた気持ちのいい朝だった。ドラカモランの朝食は、焼きたてのパン、チーズ、ハム、きゅうり、トマト、たまご、りんごやぶどうのフルーツ。それからみんな ミナ ペルホネンの〈tambourine〉の器で、 ヨーグルトを食べていた。シリアルやナッツやジャムやハチミツをたっぷりかけて。
ミナ ペルホネン〈minä perhonen〉の皆川明さんや、陶芸家のリサ・ラーソン〈Lisa Larson〉も訪れるスコーネの特別な宿は、魔法の朝食で一日がはじまる。

朝食を食べたあと、ドラカモランの裏山を通って、自然保護区〈Drakamöllan Naturreservat〉の森へハイキングに出かけることにした。蝶のイラストでポイントが記されたバタフライトレイルの地図を持って。
インガリルと愛犬のオバマ(黒のラブラドール)も散歩の時間。散歩はいつも、自然保護区のヒースの丘を歩くそう。黒ラブのオバマのあとを追いかけて、ブナの森へ入っていった。

オバマのあとをついていくと、林の奥にピンクの素敵な家が見えた。森の中に建つピンクハウスは、オーナーのインガリルの家。ピンクハウスの中は、彼女が愛するアンティーク家具や暖炉や古時計、絵画や芸術品がアートギャラリーのように飾られている。
ドラカモランのホテルと同じくらい、この家は、インガリルが手がけた美しい作品だ。

バタフライトレイル

さらに森の奥へ。緑の木立を抜けると、バタフライトレイルの目印を見つけた。
162ヘクタールもの広大な自然保護区には、9km と 3.3kmの散策コースがある。9kmコースは青い蝶の目印。3.3kmコースは蝶のない白の目印を頼りにすすむ。わたしは短い3.3kmコースを歩くことにした。
名もない草や野の花が、風にゆれてきれい。

2つのコースの分かれ道まで来ると、獣が入らないように柵がしてあって、柵の外はヒースの丘が広がっていた。わたしはヒースの丘のことをよく知らなかった。遠くから見ると、わずかな植物しか育たない、はげ山のように荒れた丘。
急に風が強くなって、木々がざわめきはじめた。ついさっきまで青空が嘘のように、重たい雲が空をおおい、かすみがかかったように丘の向こうが見えなくなった。

「オバマーー!」
わたしの声は届かない。
オバマはもう、ずっと先に行ってしまった……。

ここから先は、荒野。

ヒースの丘

丘をのぼれば のぼるほど、風が強くなって体を打ちつけた。また風の魔物がやってきたのかと、背筋にぞぞっと冷たいものが走った。
もう引き返すことはできない。ヒースの丘の野道を一歩づつ、しがみつくように進んだ。3.3kmの道のりが何倍にも長く感じた。ドラカモランの丘陵は、まるで「龍のうねり」のようだ。

どこからか「龍のうねり」に、放牧された馬の群れが集まってきた。馬の群れは、丘の牧草を食べながら移動する。栗毛やブロンドの馬のたてがみが風になびいている。どんなに強い風が吹こうとも、馬たちはたくましい脚で大地をつかみ、首を下げ、もぐもぐと草を噛んで、時折 その黒い眼でわたしを見た。馬たちは風と戯れるように丘をすすむ。
深くたれこめた雲の隙間から光がさすと、馬は金色の丘に浮かびあがるように輝いていた。あまりにも美しく、幻想的な光景……。

わたしの小さな不安や迷いや恐れは、風の魔物が、どこかへ吹き飛ばしてしまった。

ブナの木の下

いちばん高い丘の上に、一本の老いたブナの木が生えていた。丘の下からは、その木がとても孤独に見えた。
歩を進め、丘をのぼり、ブナの木の下に立って、老いた木の幹にふれた。いま来た道のりを振り返ると、丘の上の高みから見えたものは、ブナの森に守られた「荒野」だ。
その荒野は生きていた。脈打つように、うごめいていた。
「A place where time has always been」
遥か昔から変わらない景色。

ああああああーーーーー!!

わたしは 荒野に向かって叫んだ。
ふるえた、心が。

丘の上の孤独なブナの木は、きっとドラカモランの主だ。悠久の大地に根を張り、ここでずっとドラカモランの自然を見守っているのだ。

はげ山のように見えた荒野は、1年で一度だけ「魔法」にかかる。
夏の終わり、ヒースの丘には紫色の花が咲きほこる。魔法にかかったドラカモランの荒野は、一面花畑になって、あざやかな紫色に染まるそう。
蜜に満ちた花が、たくさんの青い蝶をひきよせる。紫色の花畑を駆ける馬のすがたは、それはそれは美しい。

海の見える丘

いくつもの小高い丘を越え、雲が晴れたら、丘の谷間から海が見えた。
エステルレーンの東に広がるバルト海だ。

遠くの海の見える丘に黒い小さな影がふたつ動いている。インガリルと愛犬のオバマだ!
黒のラブラドールは、道のない荒野を駆けまわっている。愛犬と遊ぶインガリルの笑顔が、丘を越えて こちらまで届くようだった。
わたしはインガリルとオバマの反対側の野道を歩いて丘を下りることにした。

石の宿

ヒースの丘で、ゴロンと転がっている大きな石。
ふと、ミナ ペルホネンの皆川明さんの「石のような宿」の話を思い出した。

「自然の中に、石のように転がっているかのような宿。
石のように自らは語らず、
静かにその人の懐(気持ち)を温められるような宿。」

そんな宿をつくることが、皆川さんの「夢」だという。

ドラカモランと、あの「夢」が重なった。

野バラ

龍の背のような石垣にそって丘を下りた。苔の石垣にいばらがからみつき、白く淡い桃色の花が咲いている。野バラだろうか。
木が朽ち、草が生え、何百年も眠るように石が積み上げられている。
ここでは、すべてが荒々しく、自然で、いばらのトゲも小さな花の蕾も、ただただ可憐に見える。

最後の夜

あんなに強かった風が優しくそよいで、風に誘われるように、ドラカモランの宿に帰って来た。わたしよりも先にインガリルとオバマは戻っていて、もう夕食の支度がはじまっていた。

ドラカモランの最後のディナー。昨日の晩は嵐であんなに暗かったのに、今日は昼間のように白夜で明るい。
夕食の時間。あのブナの木のオブジェの白い暖炉があるダイニングに入ると、ドラカモランのスタッフとインガリルが笑顔で迎えてくれた。この日の宿泊客はわたしと老夫婦の2組だけ。
窓際のテーブルに腰を下ろすと、窓の外には、夏に野外オペラの会場となるヒースの丘が見えた。

魔法の料理

オペラの丘が見える夕食のテーブル。インガリルが わたしのために、ガラスの器に花をしつらえてくれた。
とびきり美味しいエステルレーン産のアップルジュースと、前菜のブルスケッタも添えて。

黒ラブのオバマもしっぽを振ってテーブルにやって来た。頭とおでこを撫ぜたら、気持ち良さそうに目を閉じて座り込んだ。オバマは食事中ずっと、わたしの足元にくっついて離れなかった。

「MAGICAL」と称される、ドラカモランの料理。
この日は、ラディッシュと玉ねぎの魔法のスープ。
メインは、旬の彩り野菜とチキンのグリル、魔法のクリームソースがけ。
デザートは、魔法のブリュレ。

夕食のあいだ、オーナーのインガリルはずっと、わたしと向き合って話をしてくれた。
美しい自然と静寂。おいしい料理。お茶の時間。古き良きもの。それらすべてを愛するところ。
「スウェーデン人と日本人はとても似ているわ」と インガリルは微笑んだ。

「おもてなし」という言葉以上に、ドラカモランの人のやさしさが沁みてくる。
固まっていた わたしの心は、ほろりと とけた。

さよなら ドラカモラン

ドラカモラン、出発の朝。鳥たちのさえずりがブナの森に響いている。
ハネムーンスイートの黒猫と黒ラブのオバマにお別れのあいさつをした。
それから、ガラスのそら豆にも。
ダイニングの厨房に行って、ドラカモランのスタッフのハンサムさんとメガネさんにお礼をいった。
メガネさんは朝から、わたしの好きなカネルブッレ(シナモンロール)を焼いてくれた。

お別れの時、オーナーのインガリルはドラカモランの本をわたしにプレゼントしてくれた。見送りは、満開のバラのような笑顔で。「また会いましょう」と約束した。

この本を開くたび、わたしはまた、ドラカモランの「魔法」にかかるだろう。
ミナ ペルホネンの皆川明さんの言葉からはじまる美しいレシピ本は、わたしの宝物になった。

THE MAGICAL CUISINE OF DRAKAMÖLLAN

そこには心にゆったりと染みてくる
時が流れている。
人にも 風にも 草花にも 焼きたてのパンにも
彩りの美しい料理にも 喜びが宿り
生命の尊さを穏やかに感じられる場所。
心と自然を通わせる ひとときの在る場所。
親愛なる時を刻む場所。

ミナ ペルホネン
皆川 明


Drakamöllan - my reflections

Here the flow of time soaks into your heart.
Here I can feel human, one with nature.
Freshly baked bread. Beautiful food in season.
This brings joy and respect for life.
Here is a place for heart and nature to contemplate a little.
Here is a place to be and cherish good time.

Akira Minagawa
[ minä perhonen - Japanese textile and clothes designer ]

Drakamöllans Gårdshotell

美しきドラカモラン

Embedded in the rolling landscape of Österlen, Drakamöllan dates back to the 17th Century. With its timber-framed buildings and cobblestone paths framed by beautiful boxwood hedges, the old manor house is friendly and embracing, welcoming guests to a unique and genuine environment all year round. But as you will discover, Drakamöllan’s biggest treasure is its tranquillity… We are passionate about giving our guests a unique experience. One overnight stay is enough to make you feel part of the expansive Drakamöllan family. People of all ages and from all over the world find their way here, and many return year after year – sometimes even more often.

©︎ Drakamöllans Gårdshotell

ドラカモラン へのアクセス

以前〈Casa BRUTUS〉のミナ ペルホネン〈minä perhonen〉の北欧社員旅行 特集で見た、スコーネ地方の特別な宿 ドラカモラン。つぎスウェーデンに行くときは、 せったいこの宿を訪れたい!と 夢見てました。
でも、いざ旅の計画を立てようと調べても〈ドラカモラン〉の情報がぜんぜん出てこない!
アクセスもわからないし、日本人ゲストが訪れた旅行記や写真もほとんどない…… ちょっと諦めかけていたその時、ネットでスコーネ地方で観光ガイドをされている日本人のメーリンさんを見つけました。

南スウェーデン・スコーネ地方の古民家ホテル、ドラカモラン〈Drakamöllan Gårdshotell〉へのアクセスは、 デンマークのコペンハーゲン・カストラップ空港から 電車とバスで約2時間半。
( スウェーデン南部のスコーネ地方の観光は、 ストックホルム・アーランダ空港から行くよりも、 コペンハーゲンから行く方がずっと近いです)
国立公園(自然保護区)の中に建つドラカモランの宿は、 最寄りバス停からホテルまで約2kmあり、 バスの本数も多くないため、 基本的に車での移動(レンタカー)をおすすめします。

わたしの場合は一人旅で、 海外でのレンタカーの運転に不安があったり、 英語が得意ではないため、 スコーネ在住の日本人観光ガイドをされているメーリン(Melin)美佐緒さんに 観光プラン(電車のチケットとホテルの手配)と、 駅から車での送迎をお願いしました。メーリンさんには本当によくしていただいて、ドラカモランのガイドもされている方なので、とてもおすすめです。

※その他のスコーネの旅日記もぜひ合わせてもご覧ください。


コペンハーゲンからドラカモランへのアクセス

1【電車】
デンマークのコペンハーゲン・カストラップ空港から、 オーレスン海峡を渡る電車〈Skånetrafiken〉に乗って約30分。 スウェーデンのマルメ〈Malmö〉中央駅へ。
(※カストラップ空港を出たら、赤い券売機でマルメ行きのチケットを購入。券売機横のエスカレーターで降りるとホームがあります)

2【電車】
マルメ〈Malmö〉中央駅から スコーネ交通局〈Skånetrafiken〉のパープルの電車 ポーガトーグ 〈Pgatågen〉に乗って東へ約50分。スウェーデンの南の町、イースタ〈Ystad〉へ向かいます。
(※ポーガトーグは、マルメからいちばん東の町 シムリスハムン〈Simrishamn〉まで走っています。 シムリスハムンからもバスでドラカモランへ行けます。イースタもシムリスハムンも どちらも素敵な町です)

3【バス】
イースタ〈Ystad〉から[SkX 4]路線バスで約50分
(※シムリスハムン〈Simrishamn〉からは[SkX 3]路線バスで約50分)
Highway 19にあるドラカモランの最寄りのバス停 〈Maglehem Sockenvägen〉で下車。

4【ドラカモランの最寄りのバス停】
最寄りのバス停〈Maglehem Sockenvägen〉から 自然保護区の中にあるドラカモランのホテルまでは徒歩で約15分(約1km)
(※舗装されていない道なので、大きなスーツケースを持っての徒歩は厳しいです)
上の写真はドラカモランの入り口の看板。 ドラカモランのスタッフにお願いすれば ここまで迎えに来てくれるそうです。


スウェーデン南部(スコーネ地方)にある ドラカモランへの観光は、 初めてスウェーデンを旅される方には 少し大変かもしれません。
北欧数カ国をめぐるプランで 滞在期間が短い場合は、 ストックホルムよりも コペンハーゲンと合わせた観光をおすすめします。
また、ドラカモランからスコーネ地方のルンド〈Lund〉を経由してストックホルムへは、バスと特急列車X2000に乗って約5時間かかります。


このドラカモラン旅行記が
いつか誰かの 素晴らしい旅につながりますように。

Drakamöllan Gårdshotell

Osterlen, Skåne|Sweden

ドラカモラン

アクセス
コペンハーゲン・カストラップ空港から
ドラカモランのホテルまでは
電車とバスで約2時間半。
イースタ〈Ystad〉駅からバスで北東へ約50分。

Drakamöllan Gårdshotell
drakamollan.com

Ystad

スカンジナビア半島の
いちばん南の町
イースタ

南スウェーデン・スコーネの旅


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