北欧フィーカ|フィンランド・フィスカルスの旅2 (後編)|フィスカルスの夏のきらめき。アートでよみがえった、小さな村のひみつ。|Scandinavian fika.

デンマーク・スウェーデン・フィンランド、北欧デザインの旅。

フィスカルスの夏のきらめき。アートでよみがえった、小さな村のひみつ。

かつては製鉄業で一時代を築いたフィスカルス。村の中心を流れるフィスカルス川の畔には19世紀の歴史ある建物や工場跡が残り、今ではこの村に暮らすアーティストたちのアトリエやギャラリーになっています。
夏にはフィンランド屈指の美術展や、フィンランド最大のアンティークマーケットが開催され、世界中の人々がこの小さな村を訪れます。

フィスカルスの夏のきらめき。
アートヴィレッジ誕生と、フィスカルス再生のひみつ ───

<フィスカルスの旅2 後編>
>> フィスカルス編(前編)と合わせてご覧ください。

□写真左/ 港まで鉄の製品を運んでいたフィスカルス鉄道の汽車

River and Green

水とみどりの光

ヘルシンキから西へ85km。フィンランドの森と湖に囲まれた小さな村、フィスカルス(Fiskars Village)。現在は100人を超えるアーティストが暮らすアートヴィレッジと知られ、19世紀そのままの風景から、フィンランドの新しいデザイン生まれています。
かつては「製鉄の村」として栄えたフィスカルス。デゲルショー湖(Degersjön)から渓谷を通って、ポポヤ湾に流れ込む川沿いに「FISKARS」社の製鉄所が建てられ、村はフィスカルス川を中心に発達していきました。1950年代までは、工場から港を結ぶ輸送用の鉄道が走っていたそうです。この懐かしい列車の一部は今も残っていて、昔の消防署前の川べりに展示され、子供たちの楽しい遊具となっています。
フィスカルス川に飛び込んで水浴びをする子供たち。草原に寝そべって日をいっぱいに浴びる大人たち。製鉄所時代に造られた工場も、自然の中に溶け込むようにたたずんでいて、ここが昔「製鉄の村」だったことも、大勢の観光客でにぎわう「芸術の村」だということも忘れてしまいそう。
変わりゆく時代も、移ろいゆく季節も、この村では一瞬のきらめきのようなもの。水とみどりの光が、いつも、フィスカルスを包んでいます。

2015. update.

New Fiskars History

アーティスト村、フィスカルスの誕生

1977年、「FISKARS」社の製鉄工場がアメリカへ移転したことにより、廃村に追い込まれたフィスカルス。1989年、多くの建物が廃屋と化し、ほとんど人がいなくなった村に、ふたりのアーティストがやってきました。工業デザイナーのアンティ・シルタヴォリ(Antti Siltavuori)バルブロ・クルヴィク(Barbro Kulvik)夫妻は、閑散とした村の姿を目の当たりにしたと当時に、あまりにも美しいフィスカルスの自然に心を奪われたといいます。この地に移り住むことを決めたあとも、ふたりは今のように村が再生し、にぎやかになることなど想像もしなかったそうです。
現在は約600人の住人が暮らすフィスカルス村。そのうちの100人はアーティストやクラフトマン。1992年に村にやってきたニカリ(NIKARI)の家具作家 カリ・ヴィルタネン(Kari Virtanen)も、アーティスト村・フィスカルスの礎を築いた一人。 フィスカルス産ニレの木目を生かした美しいファニチャーは、村の最古のホテル フィスカルス・ヴァルツフス(Fiskars Wärdshus)の客室やレストランでも使われています。フィスカルスの森や湖を愛し、静かな冬が最も好きだというカリ・ヴィルタネン。フィスカルスのいちばんの魅力は、「住人みんなが助け合い、協力しあっていること」だと語ります。
1994年の夏。アンティ・シルタヴォリとバルブロ・クルヴィクが発起人となり、フィスカルスに住む30人のアーティストによって初のエキシビジョンが開催されました。大成功を収めたこの展示会が呼び水となり、村に人が集まり始め、生まれ変わったフィスカルスの名は瞬く間に国中に広がりました。そしてこの時から、それまで個々で活動していたアーティストたちは、コミュニティメンバーとしてひとつに団結するようになったのです。

2015. update.

Fiskars museum

フィスカルス・ミュージアム

時計塔のONOMAギャラリーショップを訪れたあとは、フィスカルス村に点在するアーティストのアトリエへ向かいましょう。アーティストショップでアクセサリーを見たり、ガラス作家のカミラ・モーベルグ(Camilla Moberg)シリウス・ギャラリーショップ(Sirius gallery shop)を訪れたり。マーケット広場から北東へ向かってのびる川沿いの道を歩けば、村で最も古い時代の赤い木造の家々(製鉄所時代の労働者の住宅)が見えてます。この辺りにはニカリの工房や、フィンランド最大のアンティークマーケット(骨董市)が行われる旧刃物工場もあり、北へ坂をのぼると、元納屋をリノベーションしたハンドメイドのキャンドルショップ デシコ(desico)があります。カラフルでかわいいキャンドルはおみやげにもぴったり。
旧刃物工場からさらに奥へ進むと、フィスカルス・ミュージアム(Fiskars museum)があります(入場料/大人 €5)。フィスカルスの博物館は製鉄所時代の鉄やハサミの歴史など、時代ごとに3つの建物に分かれています。昔の村人の暮らしぶりを再現した展示では家具や農具、パンを焼く石釜などがそのまま残されていました。写真のフィスカルス・ミュージアム(左と真ん中)が映っているストリートは、動画で繰り返し見た景色。昔のフィスカルスにほっこりします。

フィスカルスには日本人のフェルト作家・ルツコ・サカタさんも住んでらっしゃいます。今回はアトリエを見学することはできませんでしたが、いつかどこかでお会いする機会があったら、ぜひフィスカルス村での暮らしのことを聞いてみたいです。

2015. update.

OLKIKAUPPA

ヒンメリと命の光

フィスカルス・ミュージアムの向かいの建物の窓辺には、ヒンメリ(himmeli)が飾られていました。麦わらでつくる光のモビール「ヒンメリ」は、フィンランドの伝統的なクリスマス飾り。(以前、おおくぼともこ さんの本を見て、ヒンメリを作ったことがあります!)
麦わらアーティスト オルキカウッパ(OLKIKAUPPA)のアトリエへ入ると、見たこともないヒンメリがいくつも展示されていて、くるくると風にゆらめいていました。ヒンメリの影の幻想的で美しいこと。クリスマスで見る正八面体をいくつもつなげたものだけでなく、もっと大きなアーキテクチャーの作品もありました。
他にも壁に丸い太陽のような麦わらのアートがあって、よく見ると、ヒンメリを作るとき出る麦わらの屑をテクスチャのように貼りつけて作ってありました。
ヒンメリアーティストのピルヨさんは、その作品を「Light of Life」と名付け、1本の麦を手にとって、その意味を私に教えてくれました。
「私たちフィンランド人は、麦の穂でパンをつくって食べ、残った麦わらでヒンメリをつくってヨウル(冬至祭)に飾るの。すばらしいことだわ。すべて、生命の光に満ちている」
黄金色に輝く麦わらは、太陽と豊穣のシンボル。わたしたちは、命の光の中で生きている。

2015. update.

Studio Karin Widnäs

陶芸家カリン・ウィドナスのアトリエ

フィスカルス村の奥深くに広がるデゲルショーの湖。フィスカルス・ミュージアムをさらに奥へと歩いてゆくと、湖畔に大きな傾斜の屋根の陶芸家カリン・ウィドナス(Karin Widnäs)のアトリエが見えてきます。アトリエの扉が閉まっていたので諦めて帰ろうとしたら、中から声がして、カリン・ウィドナスが「特別に見せてあげるわ」と中へ案内してくれました。
カリ・ヴィルタネンの誘いで、ヘルシンキからフィスカルスに移り住んだカリン・ウィドナス。ずっと自然の中に工房を持つのが夢で、フィスカルスに一目惚れしたのだとか。カリンのアトリエ兼住居は古い民家を改築したものではなく、カリン自らが10年という年月をかけて少しづつ作っていったアトリエ。壁や暖炉に貼られているタイルはカリンが焼いたもので、この家すべてが彼女の作品。
大きな窓から差し込む新緑の光が、カリン・ウィドナスの作品を照らしています。こんな満ち満ちた空間で仕事ができることが信じられない。
「木にはエネルギーがあるし、自然はインスピレーションを与えてくれる。ここにいると、アイデアが尽きることがないわ。フィスカルスに来て、私の作品はまったく変わったの。こうやって仕事ができることがなによりの幸せ」


「フィスカルス編」の旅日記では、2006年5月にフィンランド政府観光局さんが発行した雑誌「TORi(トリ) Vol.3 ようこそ、フィスカルス村へ」をとても参考にさせていただきました。もうかなり昔の本ですが、今見てもフィスカルス村のことがよくわかる素晴らしい本です。フィスカルスに興味を持った方には、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

2015. update.

Ravintola Kitamura

ラヴィントラ・北むら

私がフィスカルス村にやってきたのは、観光のほかにもう一つ理由があります。どうしても、ある人にお会いしたかったから。
老舗ホテル フィスカルス・ヴァルツフスのとなりにある淡いオレンジ色の建物は、むかしの村の公民館。ここに、2015年のひと夏限定でオープンした日本食レストラン「北むら」(Ravintola Kitamura)があります。
オーナーシェフのスロッテ紗里(旧姓:北村)さんは、京都の「菊乃井」や野崎洋光氏の「分とく山」で働いた経験があり、2014年にはトゥルク郊外の町パライネンで初めての日本食レストラン「TA TA Takeaway」をオープンし、人気レストランにしました。
どうしてもフィスカルスでスロッテ紗里さんにお会いして、彼女のつくる日本料理を食べてみたかったのです。「北むら」には、お寿司の他にも「おにぎり」や「豆腐とわかめの味噌汁」など日本の食卓でおなじみのメニューもあって、まるで本物の「かもめ食堂」のよう。
フィンランドの食材をつかった、フィンランドの人々に愛される日本食。紗里さんが作る料理はほんとうに美味しかった!そして「美味しい」という言葉以上に何かが伝わってきました。それは日本の四季であったり、「和」の心であったり。私はフィンランドの小さな村で食べたあの味を、忘れることはありません。

(※「ラヴィントラ・北むら」は、2015年のひと夏だけの営業です)

2015. update.

フィスカルス・ビレッジ

Fiskars Village

100人以上のアーティストが暮らす、フィンランドの小さな村フィスカルス(日本語サイトあり)
http://www.fiskarsvillage.fi

オノマ・ギャラリーショップ

ONOMA

フィスカルス・アーティスト組合が直営するショップ。旧穀物倉庫でエキシビジョンも開催。
http://www.onoma.org

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