Tällberg

テルベリと
ビョルンのスポーンコリ

ダーラナ・テルベリの旅

ダーラナの深い森に抱かれるように北へ。西にシリアン湖を望みながら、レクサンド〈Leksand〉から地形に沿って田舎道を北上すると、小高い丘の上に赤い家が建ち並ぶスウェーデンの原風景が広がります。そこは、小さな村 テルベリ〈Tällberg〉。 風光明媚なこの地で、スポーンコリ〈Spånkorg〉と呼ばれるへぎ板のバスケットのかご職人、ビョルンさんの工房を探します。
スウェーデンの手仕事と、手編みのバスケット。テルベリ村の かご職人を訪ねて。

2019 Photo & Text_Scandinavian fika.

Tällberg

テルベリ村の かご職人を訪ねて

ダーラナ地方のレクサンド〈Leksand〉から北に15km。森と湖の畔にスウェーデンの伝統的なファールンレッドの赤い家が建ち並ぶかわいい村、テルベリ〈Tällberg〉にやってきた。 スウェーデンの原風景が残る、ダーラナの田舎の景色。小高い丘の上のテルベリ村からのシリヤン湖の眺めは最高。ミッドサマー(夏至)を迎えた村のあちこちで黄色と水色のスウェーデン国旗がはためいている。 赤い家の窓からは、木彫り馬のダーラヘストやかわいい人形が顔を出して「Hej! こんにちは!」と歓迎してくれてるみたい。どの庭もよく手入れされた芝生の絨毯がきれい。全自動の芝刈り機が元気に働いていた!

テルべリ村の曲がりくねった小道を抜けると、のどかな平原に かご職人の小さな工房が見えてきた。テルベリ村のかご職人ビョルンさんの工房、クネップアスケン〈Knäppasken〉へ!

スポーンコリ

ビョルン〈Björn〉さんはスウェーデン・ダーラナ地方を代表するスポーンコリ〈Spånkorg〉の職人。スポーンコリとは、マツの木を薄く割いて編んだ、へぎ板のバスケットのこと。
昔からダーラナの地で人びとの暮らしに欠かせなかった森のマツ。スポーンコリの材料となるダーラナ地方のマツの木は、樹齢200年を超えるものも多いそう。

ビョルンさんのおうちの隣に建つ赤い小屋のクネップアスケン〈Knäppasken〉は、スポーンコリの工房兼ショップになっていて、へぎ板のバスケットの他にも、木のスプーンやバターナイフ、ピザピール、パンの生地をのばすめん棒、スウェーデンの曲げ木のトレイやカッティングボードなど、ビョルンさんのハンドクラフトの作品を見てさわって買うことができます。工房の窓辺に飾られたへぎ板のランプシェードや小さなかごのオーナメント、木彫りの猫のフックも可愛かった!
どの木工細工も繊細で愛らしく、木目と色合いがきれい。手触りもなめらかで、日本の民芸に通じる気品と美しさがあります。

ビョルンさんの手仕事

赤いシャツを着た小柄なビョルンさんは、頑固な職人さんという感じではなく、気さくで穏やかで優しいおじいちゃん。小屋の角にある工房スペースでマツのへぎ板を十字に編んで、かご作りを実演してくれました。
ここでずっと独りで、かごを編んでいるビョルンさん。小気味よくバスケットを編む職人の手と、しなやかな指先に見入ってしまいました。
ダーラナでもスポーンコリを編める職人はごくわずかだそう。スウェーデン伝統の手仕事を、次の世代に受け継いでゆきたいと話してくれました。

ビョルンさんは毎年クリスマスシーズンに日本を訪れるそう。ジェイアール名古屋タカシマヤの『北欧展』にスウェーデンから出店。ビョルンさんの手編みのスポーンコリの実演販売はとても人気で、すぐに売り切れてしまうそうです!(壁には『北欧展』のチラシも飾ってありました)

クネップアスケンの工房には手編みのバスケットや木工細工だけでなく、手仕事の道具や大きなハサミ、小さな革のとんがりブーツ、野の花がペイントされた古いかごも飾ってあって、マツの香りの小屋は宝箱のような楽しさがいっぱい!

かご編みの手を止めたビョルンさんが、にっこり微笑んで言いました。
「さあ、フィーカにしよう」

絵本の家

工房の隣にあるビョルンさんのおうちで、コーヒーとクッキーのFIKA(フィーカ)。屋根の上の風見鶏が風にまわっています。 ちょっとだけ覗いた家の中もアンティークショップのような かわいいものがあふれていました!スウェーデンの伝統的な民芸品。海外の木彫りの置物。船の木のミニチュア。暮らしのひとコマを描いた油絵。骨董のテーブルウェア、壺や家具。振り子の古時計。
小さい頃に読んだスウェーデンの童話『ニルスのふしぎな旅〈Nils Holgerssons underbara resa genom Sverige〉』のガチョウのモルテンに乗ったニルスの人形を見つけて大興奮!
馬小屋を改装したというゲストルームには、フィンランドのヒンメリのような麦わらのモビールが飾ってありました。
ビョルンさんの家はダーラナ地方の伝統的な木造建築。外壁はファールンレッドと呼ばれるファールン鉱山の赤い銅の色が塗られています。玄関ポーチにはダーラナ地方伝統の花模様〈クールビッツ〉が描かれていて、ポーチの囲いはハサミで切ったように波打っていて素敵。
ここは、手仕事が生んだ家。職人の手から生まれた作品たちが、のびのび育ち、みんなで寄り添って仲良く暮らす、絵本の世界のようなメルヘンな家。

グリーンハウス

庭に建つビョルンさんの手づくりのグリーンハウス(温室)も素敵でした!たくさんの陽を浴びて、このグリーンハウスの中で1日こもりたいと思えるほど。草木や芝の緑とつながっているような感覚。あたたかい温室で育つ植物の中でFIKAすれば、そこは最高のカフェになる。無造作に置かれた庭仕事の道具も、土も錆もいい感じ。グリーンハウスの前に茂るシンボルツリーにはツルを丸く巻いたボンボンのような飾りがついていた。
ガラス窓の建具も凝っていて、外の窓枠はグリーン、入口のドアは黄色にペイントされていた。温室の内側は窓枠も壁も外側とは違うカラーリング。光が反射して明るくなるように白一色でペイントされていた。
天井の梁から教会のチャペルのような鐘と燭台のシャンデリアがぶら下がっている。切妻屋根の三角角には、大小の木彫り馬のダーラナヘストが三角スペースにぴったりはまるようにディスプレイされていた。
小さな温室にも命が吹き込まれているよう。手仕事の面白さが、ここには詰まっている。

グリーンハウスの窓辺に並んだダーラヘスト。こんなにたくさん種類があるなんて!ダーラヘスト(ダーラナホース)には、シリヤン湖に点在する風光明媚なダーラナの町の模様が絵付けされているのだとか。日本でもよく知られているお馴染みの赤い馬はモーラ〈Mora〉などが多いと聞きます。小さな丸い花模様の青い馬はレクサンド〈Leksand〉、グレーのスターバースト柄の馬はレットヴィーク〈Rättvik〉、などなど……。
みんな、テルベリのかご職人の工房へ、幸せを運んでくれる。

シリアン湖

ビョルンさんの工房を出て、テルベリ村をお散歩。田舎道を歩きながら、赤いかわいい家やお庭を拝見。六角形の湖畔のガゼボやサウナ小屋を見つけた。
針葉樹の木立の向こう、目の前がふっとひらけて、湖が広がった。かつて、ダーラナの地に隕石が落ちでできたシリアン湖。こんなにも青く澄み切った湖をはじめて見た。無数の光の粒が瞬く水面。湖水の水音と、草を踏む自分の足音しか聞こえてこない。
時が止まったような静かな世界。カモメも羽を休めている。

テルベリを歩こう

スウェーデン人の"心のふるさと"と呼ばれるダーラナ〈Dalarna〉。スウェーデンの手仕事やハンドクラフトに興味があって、ダーラナのレクサンド〈Leksand〉を旅する機会があったら、ぜひテルベリ〈Tällberg〉村も訪れてほしい。電車〈SJ〉ならレクサンドから北へ1駅(約7分)。レットヴィーク〈Rättvik〉の南西に位置するテルベリは、のどかで美しい村です。

テルベリ〈Tällberg〉の駅は小さな雑貨屋さんのようなかわいい駅舎。駅から北へのびる一本道を少し歩くと、ベーカリー〈Katarinas bröd & kaka〉が見えてきます。さらに道沿いを歩いて、二股に分かれた道を左に(西へ)進むと、テルベリのホテルが集まる観光の中心エリアに到着します。
(テルベリは、ガイドブックにも載っていない小さな村です。テルベリ駅から中心エリアのオーケルブラッズホテルまでは歩いて30分くらい(約2km)。徒歩での移動はあまりおすすめしませんが(車の移動がベター)、大きな荷物がなければ歩ける距離です。ホテルで自転車をレンタルできたら村をぐるりと周れます)
テルベリ村の人気のホテルは、オーケルブラッズホテル&ゲストイーヴェリ〈Åkerblads Hotell & Gästgiveri〉と クロッカルゴーデンホテル〈First Hotel Klockargården〉(この2つは同じエリアに建っています)、少し離れたところにグリーンホテル〈Green Hotel〉ダレカリアホテル〈Dalecarlia Hotel & Spa〉などがあります。

小高い丘の上のテルベリ村からのシリヤン湖の眺めは最高。深い森と湖と田舎の景色。何もしない贅沢がここにはあります。
わたしは、またここに来たい。のどかなテルベリ村の胸に飛び込んで、スウェーデンの原風景と手仕事のぬくもりに包まれたい。

Tällberg

Dalarna|Sweden

テルベリ

アクセス
〈Leksand〉駅から電車で北へ約10分。
〈Tällberg〉駅で下車。

テルベリ村
tallbergsby.se

クネップアスケン
knappasken.se

Insjön

インショーン

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ダーラナ 手芸の旅


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