北欧フィーカ|デンマーク・コペンハーゲンの旅|ハンス・J・ウェグナーのザ・チェア。|Scandinavian fika.

デンマーク・スウェーデン・フィンランド、北欧デザインの旅。

ハンス・J・ウェグナーのザ・チェア。

遠い北欧のデンマークから、日本の工芸品に、いつも血のつながりのような親近感を抱いていたというハンス・J・ウェグナー(Hans Jørgensen Wegner)。Yチェアをはじめとする彼の「木」の名作は、東洋の小さな島国の「和」の中にも自然に解け込みます。
ウェグナーの椅子を、ウェグナーのことを、もっとよく知りたい。そして、日本と北欧をつなぐ一本の糸のような「何か」を見つけにゆきたい。「北欧デザインの旅」へと心を動かしたのは、1998年の国際デザイン・アウォードで日本人へ送った、彼のあの言葉でした。 

「私の作品は、芸術品ではありません。日用工芸品なのです。ですから、手でさわってください。座ってみてください。そして、よく見てください。曲線を手で追って、つなぎ目を見て、心の流れを感じとってください。みなさんに、私の心、私の伝えたかったことを、ご自分の体を通して少しづつでも感じとっていただきたいのです。私は最もシンプルに、明確に、それが伝わるようにデザインしました」

美しい椅子を通して、「良いデザイン」とはカタチや華やかさを差すのではなく、人生を育むものだと教えてくれたウェグナー。92年間の、彼の生涯をたどります。

□写真左/ デンマーク国王が買い上げたといわれるヴァレットチェア(Valet Chair)

Chinese Chair

中国から来た椅子

「自分はデザイナーである前に、家具職人である」と語ったハンス・J・ウェグナー(Hans Jørgensen Wegner)。彼が30代の時につくったチャイニーズ・チェア(Chinese Chair)は、中国の明代の椅子「クワン・イ」をリデザインしたもの。「古代はわれわれよりも、もっとモダーンである」 デンマーク家具デザインの父、コーア・クリント(Kaare Klint)の言葉に習い、ウェグナーは伝統的な家具の良い点を見直し、現代の生活にマッチするように、機能的に、シンプルに、木を素材とする椅子をデザインしてきました。プロポーションの美しさ、掛け心地の良さで最高傑作とされるザ・チェア(The Chair)は、チャイニーズ・チェアをルーツにつくられ、その後、Yチェア(Y-Chair)へとカタチを変えていきました。ウェグナーの椅子は素晴らしく高価だけれど、決して贅沢な芸術品ではなく、日用工芸品として人々の暮らしに溶け込み、長く愛されています。彼の椅子が、日本の家具に良く合うのも、そのルーツがアジアにあるからかもしれません。

2010. update.

Børge Mogensen

モーエンセンの息子への贈りもの

1914年、デンマーク・ユトランド半島に生まれた2人。ウェグナーとボーエ・モーエンセン(Børge Mogensen)は強い友情で結ばれていました。椅子づくりにおけるリデザインの発想は、彼との出会いから生まれたものだと言われています。モーエンセンの息子の名付け親にもなったウェグナーは、敬愛する父親の名「ペーター」を授け、誕生祝いに手作りのペータズ・テーブル&チェアを贈ったそうです。
無名時代のウェグナーが、アルネ・ヤコブセンの助手として、オーフス市庁舎(Aarhus City Hall)の家具デザインの設計にたずさわっていたのも有名な話。モダニズム建築を実現しようとするヤコブセンと、オーソドックスな庁舎を望む市議会とが対立し、「時計塔」の有無をめぐって大議論になったとか。ウェグナーはヤコブセンとは対照的に、何かを主張してクライアントとぶつかることはなかったそうです。「求められるものをつくる」ことが、ウェグナーにとってのデザインだったのです。
写真左上は、デンマーク国王が買い上げたといわれるヴァレットチェア(Valet Chair)。背もたれがハンガーに。座を手前に引き起こすとズボン掛けに。さらに、座の下の三角形のボックスは小物入れに使える、ユニークな椅子。

2010. update.

PP-701

木を知り、木を愛する

ウェグナーの椅子はさりげなく、かっこいい。ヤコブセンのエッグチェアのような華やかな主役ではく、まわりを引き立てる名脇役。
1960年のアメリカ大統領選で、J・F・ケネディとニクソンがテレビの討論会で座っていたラウンドチェアは、一夜にして有名に。その後、スミソニアン博物館に展示されることになると、「椅子の中の椅子」 ザ・チェアと呼ばれるようになりました。
工芸博物館のカフェのためにつくられたアームチェア(PP-701)は、ウェグナー夫人が最もお気に入りの椅子で、自宅のダイニングでも愛用しているとか。ホーン(角)のような笠木は4つのメープルの木片でつくられていて、削り出しに使われた残り木を利用してるそうです。「木を知り、木を愛する」ウェグナーの椅子は、ただ、そこにあるだけで、生命の息吹のような気品を感じます。うっとりするほどの美しさ。そして、ゆったりした時間と、落ち着きをもたらしてくれるもの。 PP-701に座って、コーヒーを飲みながら工芸博物館の中庭を見ているだけで、時間が自分の体の中を流れてゆくような不思議な気分になりました。木に癒されるように、ウェグナーの椅子は座るものに力を与えてくれます。

2010. update.

Hans J Wegner

ハンス・J・ウェグナー

靴づくりのマイスター(職人)だった父ペーターの背中を見て育ったウェグナー。幼い頃は彫刻家になりたかったそうです。 木を削ることが好きで、14歳のとき、家具職人になるため、近所の木工所に弟子入りし、修行をはじめました。13歳までしか学校に行っていなかったため、計算が苦手だったというウェグナー。構造計算なんてもってのほか。でも、どんな問題にぶつかっても、諦めず解決策を見つける。計算ではなく図面の上で、偶然では考えられないような美しいフォルムと構造を導き出す。
そんなウェグナーの背中を見て育った長女のマリアンネは、「父はずっと家具とともに生きてきた人。24時間、家具のことばかり考えていました。娘と家具とどちらが大事か、嫉妬したこともあります」と語っています。
自分の身長と体重が、標準的なデンマーク人と同じだということを自慢にしていたウェグナー。それは、彼の「座り心地」が、標準的なデンマーク人の「心地よさ」につながると考えていたから。
92年間のハンス・ヨルゲンセン・ウェグナーの生涯。彼の椅子は、彼の人生そのものでした。

2010. update.

Charles Eames

DDCのデザインブック

ダンスク・デザイン・センター(DDC)で買った、DDCのウェグナー本。北欧旅行のおみやげの中でいちばん大切にしている宝物。椅子の写真だけでなく、前横上の三面一体の図面やドローイングも美しい。織田憲嗣さんの『ハンス・ウェグナーの椅子100』といっしょに本棚に飾ってあります。
ウェグナーの本を読んで驚いたのは、彼が椅子のデザイナーとしていちばん尊敬しているのは、ヤコブセンでも、クリントでも、モーエンセンでもなく、チャールズ・イームズ(Charles Eames)だったこと! 成型合板、プラスチックといった新素材を用いて良質な家具を生み出したアメリカの巨匠と、木のウェグナーとのつながりが見えて来なかったけど……なるほど。イームズの作品に見られる機能性や大衆性は、ウェグナーに確かに通じるもの。
日本の美術館や展示会でウェグナーの椅子を見ると、妙に嬉しくなって、撫でたくなります。本でしか出会ったことのない、オックスチェアピーコックチェアのような動物ものならなおさら。あいさつをして、ハグをして、腰掛けてふれあう。椅子はいつだって、包み込むように私たちを受け止めてくれます。

2010. update.

Y - chair

わが家の Yチェア

家のリビングダイニングには無垢の木のテーブルと、4つのYチェアがあります。10年前、家族4人の食卓に並んだ、はじめての北欧家具。最初に腰掛けたときは、それがデンマークの椅子だということも、ウェグナーの椅子だということも知りませんでした。
あれから毎日、座って、本読んで、ごはんを食べて、休みの日に体をあずけると、日に日に、この椅子が持つほんとうの素晴らしさが伝わってきました。使えば使うほど味が出てくるビーチ材と、紙のひもを編んだペーパーコードのシート。Yの字のフォルムの柔らかさが、もう、たまらなく愛らしい。なめらかな木の曲線を手でなぞるだけで、心が和みます。飼っていた猫がペーパーコードの上で爪を研ぐたびにひやひやし、シートにカバーをかけたことも。大切に大切に、親から子、子から孫へと、ずっとわが家に残しておきたいもの。
「良いものを長く使う」こと。長く使うからこそ、わかってくること。デンマークから来た椅子が教えてくれたことは、はかりしれません。
このWEBサイトも、Yチェアに座って、コーヒーを飲みながらのんびりつくりました。すてきな北欧時間をありがとう、Yチェア!

2010. update.

カール・ハンセン&サン

Carl Hansen & Søn

ウェグナーの作品を専門に製造するデンマークの家具メーカー、カールハンセン&サン。
http://www.carlhansen.com

PP モブラー

PP Møbler

ウェグナーのザ・チェアを製造しているデンマークの伝統ある家具工房、PPモブラー。
http://www.pp.dk

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