北欧フィーカ|スウェーデン・ストックホルムの旅|アスプルンドの森の十字架。世界遺産、森の墓地へ。|Scandinavian fika.

デンマーク・スウェーデン・フィンランド、北欧デザインの旅。

世界遺産、アスプルンドの森の十字架。

ひんやりと冷たいスウェーデンの夏の静かな朝。ストックホルムの中心から南へ5km。グリーンラインに乗って、スクーグスチルコゴーデン(Skogskyrkogården)駅へ向かいます。駅から続く菩提樹の並木のトンネルをくぐると、どうしてもこの目に焼きつけておきたかった、あの景色が見えてきます。
「北欧モダンの父」スウェーデンの巨匠、エリック・グンナール・アスプルンド(Erik Gunnar Asplund)が、生涯をかけて築いた世界遺産「森の墓地(Skogskyrkogården)」。
広大な針葉樹の森には、約10万もの墓石が木漏れ日を浴びてたたずんでいます。森の十字架に触れ、楡の木の丘に立つと、自然と建築が融け合う緑のランドスケープが広がっていました。

 

□写真上・左/ スウェーデンの世界遺産「森の墓地」のシンボル。花崗岩でできた巨大な十字架。

Skogskyrkogården

森の墓地、スクーグスチルコゴーデン

北欧デザインの旅でどうしても訪れたかった、巨匠たちの残した偉大な北欧建築。デンマークのアルネ・ヤコブセン、フィンランドのアルヴァ・アアルト。そして、ヤコブセンとアアルトに多大な影響を与え、若きの日のふたりのアイドルだった、スウェーデンの巨匠エリック・グンナール・アスプルンド(Erik Gunnar Asplund)
ストックホルムを初めて訪れたとき、真っ先に向かったアスプルンドのストックホルム市立図書館(Stockholms Stadsbibliotek)。360度本に囲まれた、あの感動は一生忘れることはありません。2度目のストックホルムの旅では、前回訪れることができなかったもうひとつの傑作、スウェーデンの世界遺産「森の墓地」(スクーグスチルコゴーデン Skogskyrkogården)を見るために、朝早くホテルを飛び出しました。
地下鉄中央駅からグリーンラインに乗って南へ約15分。スクーグスチルコゴーデン(Skogskyrkogården)駅で下車。菩提樹の並木道をぬけて石垣の入口へたどり着くと、ふっと視界がひらけ、緑あふれるランドスケープが!まっすぐ伸びた石の小道の先には、あの巨大な十字架がたっていました。
▶ 「森の墓地」パンフレット(日本語)

2014. update.

Almhöjden

瞑想の丘

20世紀を代表する傑作ランドスケープ「森の墓地」は、エリック・グンナール・アスプルンドとシーグルド・レーヴェレンツ(Sigurd Lewerentz)の二人の建築家によって設計されました。ストックホルム郊外にある「森の墓地」は、スウェーデンの中でも最大規模の埋葬地のひとつ。
「生・死・生」……生命循環のシンボルとしてつくられたという花崗岩の十字架。アスプルンド設計のこの巨大な十字架の近くには「森の火葬場」と3つの礼拝堂(「信仰の礼拝堂」「希望の礼拝堂」「聖十字架の礼拝堂」)があります。
「森の火葬場」の西側には楡(ニレ)の木の茂る丘が。広大な針葉樹の森と「復活の礼拝堂」を見下ろせる高台は、レーヴェレンツ設計の「瞑想の丘」
アスプルンドの十字架と、レーヴェレンツの冥想の丘のあいだには、ふたつを鏡のように映す小さな泉があります。花崗岩の十字架に触れた時の、ひんやりとした清らかな感触。冥想の丘に立ち、森を見渡した時の、静寂と神秘的な景観。不思議なのは、この墓地には、あたたかさが潜んでいるということ。生きた森につつまれているということ。自然と建築が美しく融け合い、あの泉のように、「生」から「死」、「死」から「生」を映し出しているのです。

2014. update.

Gunnar Asplund

北欧モダンの父、グンナール・アスプルンド

1885年にストックホルムに生まれたエリック・グンナール・アスプルンドは、少年時代に描いていた画家の夢を諦め、建築を学びます。
1914年、「自然の森を生かした墓地」の国際コンペに取りかかったのが、アスプルンドとレーヴェレンツがまだ28歳の頃。私設学校クララ・スクール時代からの友人だったふたりが手を組み、コンペに勝利した「広大な自然の地形を生かした、緑あふれるランドスケープ」は、25年の歳月を経て1940年に完成しました。
完成からまもなく、アスプルンドは55歳の若さで死去。「森の墓地」はまさに、アスプルンドが生涯をかけて築いた建築遺産だったのです。
亡きアスプルンドへ、盟友アアルトも言葉を送っています。「彼こそがモダン建築の真のパイオニアであり、先導者だった。私は彼と出会い、並のスケールでは測れない建築があると悟った。アスプルンドの全作品には、人間を含む自然との触れあいが常にはっきりとあらわれている」
1994年、「森の墓地(スクーグスチルコゴーデン)」はユネスコの世界遺産に登録されました。「北欧モダンの父」と呼ばれ、北欧の近代建築の礎を築いたアスプルンドは、自らが設計した森の墓地に今も安らかに眠っています。

2014. update.

Skogskapellet

森の礼拝堂

「森の火葬場」から松林を抜けて奥へと進むと、深い森の中にあらわれる三角屋根の小さな礼拝堂。1920年に「森の墓地」の敷地内にいちばん最初に完成した「森の礼拝堂(Skogskapellet)」はアスプルンドが設計したもの。1918年の夏、新婚旅行で訪れたデンマークのリーセルンドで見た、草葺屋根のあずまやに深い感銘を受け、「森の礼拝堂」がデザインされたのだそうです。
「森の礼拝堂」からさらに東へ歩くと、4つのピラミッドのような、緑のとんがり帽子のビジターセンター(Visitors Center)があります。もともとは1923年完成の「松林のパビリオン」という墓地管理職員用の建物。現在はインフォメーションセンター、カフェ、展示会場として利用されています。
夏の間は、英語とスウェーデン語のガイドツアーがあり、森の墓地と5つの礼拝堂を見学できます。所要時間は約90分。ストックホルムカードがあれば無料になります。

2014. update.

Sju brunnars stig

死者は森へ還る

「瞑想の丘」から「復活の礼拝堂」を結ぶ「七井戸の小道(Sju brunnars stig)」は、針葉樹の原生林を切り開いてくつられた小道。静かな森の中を歩む一本道は888メートルあり、「復活の礼拝堂」で別れの儀式を行う人びとが死者を弔い、悲しみを癒すことができるようにとの思いが込められています。この道のりは、最後のお別れを告げるための大切な距離。
102ヘクタールの広大な森の中には、約10万の墓が点在し、低い墓石が整然と並んでいます。けれど、スクーグスチルコゴーデンは中心は墓石ではなく、「森」なのです。墓に添えられた花も、花瓶でなく、土に植えられています。
『死者は森へ還る』という死生観を持つスウェーデン人にとって、森は「故郷」であり、安らぎを得られる場所なのです。静寂と木漏れ日の中にたたずむ墓石さえも、美しく、森のぬくみにつつまれているよう。

2014. update.

Uppståndelsekapellet

レーヴェレンツの復活の礼拝堂

1925年に完成した、シーグルド・レーヴェレンツ設計の「復活の礼拝堂(Uppståndelsekapellet)」。アスプルンドの設計した木立にひそむ「森の礼拝堂」とはまったく異なった個性の、古代の神殿を思わせる建築。礼拝堂には古典風神殿建築様式を取り入れているのだとか。
広大な「森の墓地」をすべてまわろうと思ったら、どれだけ時間があっても足りません。日の出が早い夏の北欧では、ショップがオープンする前の早朝に訪れるのがおすすめです。
最寄りの Skogskyrkogården 駅の1つ前の Sandsborg 駅近くに、地元で愛される天然酵母のベーカリー Gamla Enskede Bageri があります。平日は朝7時からオープンしているので、パンで朝食にしました。焼き立てのカネルブッレ(スウェーデン風シナモンロール)が香ばしくてモチモチで、スウェーデンで食べた中でいちばん美味しかったです!

2014. update.

森の墓地

Skogskyrkogården

「北欧モダンの父」スウェーデンの巨匠グンナール・アスプルンド設計の世界遺産「森の墓地」
http://www.skogskyrkogarden.se

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