
ヘルシンキ中央駅からVR(近郊列車)Mラインに乗って、北のヴァンター(Vantaa)へ。ロウヘラ(Louhela)駅で降りてすぐ、白樺の林の奥にその教会はあります。
フィンランドで最も美しい「光」の教会、ミュールマキ教会(Myyrmäen kirkko)。
現代のフィンランドを代表する建築家、ユハ・レイヴィスカ(Juha Leiviska)がミュールマキ教会に照らした光は、陽光と光を奏でる楽器によって創られています。
神秘的で、あまりにも美しい光。
ユハ・レイヴィスカ、光の旅 ───
□写真上/ ミュールマキ教会の礼拝堂と、白い大きなパイプオルガン
フィンランドが恋しくなって、日が短くなる冬が来るたびにひらく本があります。ヘルシンキのグッド・シェパード教会(Hyvan Paimenen kirkko)が表紙を飾る美しい写真集、小泉 隆さんの『フィンランド光の旅 北欧建築探訪』。天から降り注ぐ陽の光と、光の結晶のようなペンダントライトの明かり。アルヴァ・アアルト(Alvar Aalto)の後継者ともいわれる現代のフィンランドを代表する建築家、ユハ・レイヴィスカ(Juha Leiviska)との出会いはそこから始まったのです。
日照時間の少ない、暗く長い冬を過ごすフィンランド人にとって、光はもっとも尊いもの。
ユハ・レイヴィスカが「陽光」と名付けたもうひとつの教会、ミュールマキ教会をどうしてもこの目に焼きつけたくて、ヘルシンキ郊外へと旅に出ます。
ユハ・レイヴィスカの光射す方へ。
フィンランドで最も美しい光の教会と称えられる、ユハ・レイヴィスカの代表作、ミュールマキ教会(Myyrmäen kirkko)。
1984年に完成したミュールマキ教会の神秘的な光は、天窓と壁のスリットから木漏れ日のように差し込む自然光と、真っ白な壁に反射するやわらかな光によって生まれています。
息をのむほどに美しい、光の景色。シェードを何枚も重ねたペンダントライトのきらめきは、天から舞い降りた天使のよう。
空へのびる白樺のような柱。ふわりと浮かび上がるクリスティーナ・ニュルヒネン(Kristiina Nyrhinen)の大きなタペストリー。白い十字架の祭壇には、正午近くになると光のシャワーが降り注ぐといいます。
陽光が刻々と、時間や季節と共に角度を変えるたび、教会を照らす光は美しく形を変え、その色を変え、神秘的な世界を映し出します。よみがえるのは、ユハ・レイヴィスカの言葉。
「光は、空間に生命の息吹を与えます」
「光と音楽の建築家」とうたわれた、ユハ・レイヴィスカ。音楽家でもあり、ピアニストでもあったユハ・レイヴィスカは「建築と音楽は、最も密接な関係にある芸術」だと語ります。
「建築も音楽も、人間の存在する次元や感覚と呼応し、我々の理解を超えた無限の宇宙を経験できる空間。その連続する空間の重なりを創りだす芸術なのです」
ユハ・レイヴィスカ自らがデザインした「浮遊する照明」は、シェードを何枚も重ねることで光が反射し合い、特別な輝きを放っています。「インテリアは、光を奏でる楽器」という彼の言葉から、浮遊する照明は、時に光の音符のようにも見えてきます。
ピアノの旋律で空間を創り上げてゆくというユハ・レイヴィスカ。その建築には、生命の光と同じように、まばゆい音楽が流れているのです。まるで、あの大きなパイプオルガンをユハ・レイヴィスカ自身が奏でているかのよう。
ヘルシンキ中央駅から、近郊列車に乗ってやってきたヴァンター市のロウヘラ(Louhela)。ロウヘラの駅を出るとすぐに、白とベージュの縦長のフォルムの建物と、教会の鐘が見えてきます。白樺の林に中にひっそりと佇むミュールマキ教会。内部の空間からは想像できないような外観で、白樺の木々ように垂直なスリットと窓が印象的。この窓から斜光が差し込むと、礼拝堂に光の帯が浮かび上がります。
夏よりも冬の雪景色の方が、ミュールマキ教会のフォルムの美しさが際立ちます。白樺と建築が重なるように、溶け合って見えるのです。
(教会の入口がどこかあるか、ちょっとだけ迷いますが、エントランスは写真の右側にあります。※日曜日の午前中はミサがあるので見学できません)
ミュールマキ教会を訪れたのは雨の日でした。しとしとと小雨が降る中、教会のエントランスに足を踏み入れると、窓辺にはアアルトが椅子が並んでいました。奥からスタッフの声が聞こえてくるだけで、自分ひとり。他には誰もいません。
ミュールマキ教会のパンフレットを手にとって、そっと奥にすすむと、何度も写真で見たあの美しい礼拝堂が広がっていました。祭壇にこぼれる陽の光と、ペンダントライトの輝き。礼拝堂をつつむ真っ白な光の中、夢中になってカメラのシャッターを切りました。
でも、たとえ何枚撮っても、どんなに綺麗に写しても、あの美しさと光は、写真にはおさまりきならいもの。感じたまま、この目に焼きつけるしかありません。
ミュールマキ教会へは、ヘルシンキ中央駅からVR(近郊列車)のMラインに乗って約20分。ミュールマキ(Myyrmäki)駅の次のロウヘラ(Louhela)駅で降りてすぐです。はじめてのフィンランド旅行でも行きやすい場所ですが、ヘルシンキの市内観光はほぼトラムなので、列車に乗るだけでもやっぱりちょっとドキドキします。
ミュールマキ教会はヘルシンキ市内ではなく、ヘルシンキ空港があるヴァンター(Vantaa)市にあります。ヘルシンキ観光ではトラム、地下鉄、バスが乗り放題になるデイチケットを買ってまわっていましたが、近郊列車に乗るためには中央駅でチケットを購入しなくてはなりません。私はこちらのブログに助けていただきました。チケット購入から列車の乗り方まで、完璧なガイド。写真も素敵です!
人から人へ。町から町へ。バトンを渡すように、誰かの日記や言葉が、北欧の旅をつなげているのです。
Myyrmaki Church
フィンランドの建築家 ユハ・レイヴィスカ(Juha Leiviska)の代表作、ミュールマキ教会。
https://fi.wikipedia.org/wiki/Myyrmäen_kirkko